ホンジュラスで今何が起きているか~命を守るためには~ ホンジュラス事務所 白川良美

2020/12/01

「命を守る」と聞いて思い浮かぶのは、医師や看護師など医療現場で働く人や病院などの医療機関の存在ではないでしょうか。
 
AMDA-MINDSは2018年から、ホンジュラス共和国エルパライソ県テウパセンティ市で人々の命、特に妊産婦や新生児の死亡率の改善に向けた活動を実施しています。具体的には、保健所の改修工事、医療従事者の技術向上のための母子保健研修、医師を対象とした超音波診断装置(エコー)技術研修、妊婦クラブ(いわゆる母親学級のようなもの)の実施運営などに、保健所スタッフとともに取り組んできました。これらの活動を通して、保健所、市役所、住民との連携を図り、保健サービスの向上に尽力するという、平時のニーズに応えてきました。
 

保健所の薬品庫の状況をモニタリングする白川(左)

 
しかし今年は、平時のニーズに応えるだけでは人々の「命を守る」ことができない事態が起きました。皆さんもご存じの新型コロナウイルス感染症、そして11月にホンジュラスを襲った2つのハリケーンの影響です。
 
ホンジュラスでは、3月に新型コロナウイルスの感染者が初めて確認されてから、国境封鎖や全国を対象としたロックダウンが施行されました。いずれもその後解除されましたが、外出制限は継続されており、この間、首都の事務所から事業対象地へは行けなくなり、事業対象地に居住する現地スタッフさえも外出できないなど、一時は活動の停滞を余儀なくされました。「感染しない、させない」ために、社会生活のすべてに感染対策が施されていました。
 
銀行の様子。窓口と顧客ロビーの間は閉ざされ、顧客同士の椅子も離されている。

 
制限がありつつも経済活動が再開し、人々が外出するようになった頃、事務所スタッフは必ずフェイスガードとマスクを着用して通勤し、スーパーや薬局、携帯電話ショップでは、1.8mの社会的距離を保ち、入店前の検温、手指消毒、ID番号による入場規制も行っていました。ショッピングモールに人はほとんどおらず、買い物時間は短くするように推奨されていました。ここで感じたのは「日本以上の感染対策だ!」ということ。町を歩く人はマスクをつけているし、鼻がマスクから少し出ていようものなら、「鼻がマスクからでていますよ~」と周りの人が注意するほど徹底していました。脆弱な医療水準のホンジュラスでは、一人ひとりができる基本的な感染予防対策だけが人々の生きる術かのように、ほとんどの人がこの新しい生活様式に適応しようとしていました。
 
同僚の感染対策。フェイスガードとマスクを着用して通勤。

 
経済活動がようやく息を吹き返しつつあった11月、巨大ハリケーンがふたつ、4日に「エタ」(Eta)、17日には「イオタ」(Iota)がホンジュラスを襲いました。特にイオタは勢力が強いと言われていたことから、ホンジュラス全土が警戒地域となり、警報が発令されました。同僚からは、今年は昨年よりも雨が多いが、ホンジュラス全土に警報が発令されたのは初めてだと聞きました。11月19日現在で確認されている被害は338万人と報告され、これはホンジュラス人口の約3割近くになります。(2020年11月19日 EL HERARD新聞より)。
 
ホンジュラス全土に影響を与えたイオタは、事業地のテウパセンティ市にも被害をもたらしました。家の天井が飛ばされた人、学校への避難を余儀なくされた人、農作物がすべて水につかってしまった人。コロナ禍中の自然災害という危機的状況下、生命活動を維持するために不可欠な「生理的欲求(食欲など)」や「安全欲求(安定安全な環境で暮らしたい)」が高まることは当然です*。またも現場のニーズは変わり、まさに今生きるための支援を求められるようになりました。(AMDAグループによる緊急支援活動の様子はこちらをご覧ください)
 
水につかった農作物。ハリケーンは事業地テウパセンティ市にも大きな爪痕を残した。(写真提供:テウパセンティ市緊急支援委員会)

 
「命を守る」仕事の医療従事者も自分の命や生活を脅かされては何もできません。「命を守る」ためには、安全な道、安全な橋、吹き飛ばされない屋根など、インフラの必要性も合わせて痛感しました。命は医療だけでは救えないとつくづく思います。道路を整備し、電気やガスのライフラインを整え、そして屋根の吹き飛ばない頑丈な家に住む。命を守る最低限の環境があり、それを支える多くの人のおかげで、私たちは何とか生きていけます。日々、被害状況が明らかになる中で、AMDA-MINDSとして何ができるか、この難局をどう乗り越えようかと、事業スタッフ、現地の人と連絡を取り合いながら現状把握、ニーズ調査を進めつつ、可能な支援を始めています。
 
この自然災害がテウパセンティ市の後退の一歩ではなく、台風に負けないさらに強い地域になれるように関わっていければと思います。コロナ禍とハリケーン被災を共に乗り越えたからこそ、強い連携ができた!といえるような支援を地域の人々と一緒にしていきたいです。そして、これからは短期の緊急支援、新型コロナウイルス禍での中長期支援の在り方を模索し、一人ひとりに寄り添った支援をしていきたいと思います。
 
*アメリカの心理学者アブラハム・マズローによる欲求5段階説から引用。人間の欲求を5段階のピラミッド状の階層で表現したもので、下層から「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」で表現される。
 
 

白川良美(しらかわよしみ)
ホンジュラス事業 業務調整員

 
中学生の時にケビン・カーターの「ハゲワシと少女」の写真を見たことが、国際協力の道をめざすきっかけに。看護師として働いた後、青年海外協力隊員になり、南米パラグアイで生活習慣病予防対策等に携わる。その後、公衆衛生学修士を取得。開発コンサルティング企業勤務を経て、2019年AMDA-MINDS入職。趣味はバスケ、スノーボード、アクセサリー作り。岡山のおすすめスポットは、日本酒の利き酒ができる駅周辺の某店。千葉県出身。

 
 
 


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