多忙な保健スタッフの業務改善を目指して~5Sによる整理術~
ミャンマー事務所 渡辺陽子

2020/12/21

マグウェ地域パウッ郡では、「保健サービス利用推進プロジェクト」を今年2月から開始しました。地域の最前線で働く基礎保健スタッフ(助産師や補助医師などの保健スポーツ省職員)と村人の保健衛生に関する知識や対応能力の向上を通じて、保健サービスの利用が進むようになることを目指しています。基礎保健スタッフは、保健サービスの提供以外にも、報告書の作成、ミーティングへの参加など、多忙を極めています。現状のままでは、保健サービスを必要な時に必要な住民へ十分に提供することができません。今回は、こうした状況におかれている基礎保健スタッフを対象に実施した「業務整理ワークショップ」の様子、そこで共有された課題や「5S(※)」を用いた実践についてお伝えしたいと思います。
 
基礎保健スタッフによる業務の振り返り
 
基礎保健スタッフは普段、住民にとって一番身近な保健施設である地域補助保健センターや地域保健センターと呼ばれる、村の小さな施設に勤務しています。ワークショップでは、普段の業務を整理し、課題を共有しました。例えば、チョウタンキン保健センターでは、書類作業に関する課題が挙げられました。「書類棚には、予防接種などセンターで実施する保健サービスや疾患別の件数、妊産婦死亡等に関する記録を保管していますが、それとは別に、私たちが監督する5ヵ所の地域補助保健センターの毎月の報告書も保管しています。そのため、ミーティングや報告書作成の際に、必要なデータを閉じたファイルを探し出すのに時間がかかって大変なんです」
 
この他にも、参加者からは次のような課題が共有されました。
「体重計、血圧計、点滴スタンドなどの医療機器や椅子・机などを1ヵ所に保管しているが、どこに何が置いてあるのか分からず、使いたいときに中々見つけられない。」
「3ヵ所の地域補助保健センターに配布する薬品を、一時的に自分のセンターで保管している。日々使用する薬品と同じ場所に保管しているため、後で各地域補助保健センターに配布する際に仕分けるのが大変。」
 
こうして浮かび上がった課題を元に、どうしたら業務上の無駄を省き、効率化を進めることができるかを検討しました。さらに、事業スタッフからは、業務改善のツールとして「5S」を紹介しました。5Sには、書類や薬品の整理に活用できる具体的な方法として「ラベルを貼る」、「カラーコードで分類する」、「番号やアルファベットコードを付ける」があります。5Sの概念と整理術を学んだ参加者は、紙とペンを使って早速実践してみました。
 

業務整理ワークショップの様子。書類棚のファイルを取り出し、整理方法を確認する参加者たち。(チョウタンキン地域保健センター)

 
こちらは書類整理の改善前・改善後(チョウタンキン地域保健センター)

  • 改善前
     
    最新の記録と古い記録が区別されていない。一つの仕切りに、予防接種、健康教育、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)などのファイルが混在。地域保健センターと地域補助保健センターのファイルが混在。
  • 改善後
     
    オレンジ色のラベルで、記録の新旧を年ごとに整理(黄枠内)。黄緑色のラベルで、保健サービスの種類ごとに仕切りを分けた(緑枠内)。地域保健センターと地域補助保健センターのファイルも仕切りを分けた。

 
続いては薬品整理の改善前・改善後(タントゥ地域保健センター)
 

  • 改善前
     
    薬品棚には置かれているが、どの薬がどこにあるかがバラバラ。(写真撮影時は在庫が少なく、一見整理されているようも見える。しかし、薬品が補充された後は、さらに多くのものが混在するため、必要な薬を探し出すのが難しい)
  • 改善後
     
    棚に薬品名を記入(青枠内)し、薬の種類ごとに並べ直した。こうすることで、薬ごとの保管場所、在庫量も一目で分かるようになる。

 
ワークショップ参加者の声
 
冒頭で紹介したチョウタンキン地域保健センターの基礎保健スタッフは「薬品棚や書類棚を整理したいと以前から思ってはいたものの、具体的な方法がわかりませんでした。5Sは、整理することで、探す時間も短縮できるとても良い方法だということを実感しました。今回、5Sを知ることができてよかったです」と話していました。
 
「自分の保健センターでも5Sをやってみたいです。でもラベル作成のため紙やテープなど、5Sの実践に必要な文房具があるか心配です」という声は、キンソケ地域補助保健センターの基礎保健スタッフ。対して「わざわざ用意しなくても、保健センターにある薬品の空き箱などを使えばいいんじゃない?」というアドバイスが、同地域補助保健センターを監督するタズー地域保健センターの基礎保健スタッフからありました。方法は素晴らしくても、何か特別な道具がないと実践できないものなら継続しません。身近にあるモノを使って工夫するよう助言した基礎保健スタッフが、とても頼もしく見えました。
 
プロジェクトでは、今後も業務整理ワークショップを続けていきます。基礎保健スタッフの業務が少しでも効率化し、保健サービスにより集中できるようになればと考えています。ワークショップでの学びと実践が持続されるよう、これからはモニタリングをしていく予定です。
 
※5Sとは、日本の産業界で開発された職場環境改善及び品質管理の手法で、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の各ステップの頭文字をとって名付けられたもの。 (JICAウェブサイトより)
 
 

渡辺陽子(わたなべようこ)
ミャンマー事業 業務調整員

大学生の時に訪れたフィリピンで目の当たりにした「格差」に衝撃を受けるのと同時に、都市部のスラムや農村でその格差是正に取り組む人々に感銘をうけ、国際協力の道を志す。大学卒業後、病院事務職を経て、公衆衛生学修士を取得。NGO職員としてフィリピンにも駐在後、2017年にAMDA-MINDS入職。趣味は歯磨きとヤンゴンの動物園散策。ヤンゴンにある動物園は緑に囲まれた敷地にあり、子ども連れの家族を見ているだけで癒し。岡山のお気に入りスポットは、後楽園の井田(田んぼ)と、路面電車から見える景色。埼玉県出身。

 

 
 


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