「女性の下半身ってどうなってるの?」ミャンマー少数民族の村での母子保健研修 ミャンマー事務所 西尾浩美

2020/04/07

ミャンマー北東部のシャン州で実施中の「母子保健改善プロジェクト」が、2年目を迎えました。このプロジェクトの目標は「村人が自ら、母子の健康を守る行動をとるようになること」。妊娠や出産に関する研修をはじめ、搬送基金の設立、病院までの道の整備など多方面からアプローチし、母子が妊娠や出産で死なないしくみづくりを目指しています。
 

プロジェクトを実施するのは、水道も電気もない小さな村々

 
こうした活動の中から、今日は村での研修の様子をお届けします。
 
ここは、シャン族(101世帯)が暮らすカウンショー村。夕暮れ時、畑仕事を終えた村人が40人ほど村長の家に集まりました。今日はAMDA-MINDSが月に1度開催する母子保健研修の日。スタッフは、すでに室内の壁に、女性器のしくみや月経の周期などについてのカラフルなポスターを貼って、準備万端です。
 
「女性の下半身には3つの穴があります。それぞれ何のための穴でしょう?」。スタッフが参加者に問いかけます。照れたような笑いが広がる中、「おしっこと、ウンチと、赤ちゃんの穴!」と元気な中年女性が答えます。
 
「正解!赤ちゃんの穴からは、10歳くらいになると時々血が出るようになります。実はこれ、大人になったときに赤ちゃんを生むための準備なのです」。男性は「そうだったのか」と驚いた表情。こうして月経や妊娠についての研修が始まります。
 
2時間の研修では、男性に妊婦の疑似体験をしてもらうコーナーも設けました。妊婦のお腹の重さは臨月には7kgになりますが、村の女性たちは、時には上の子を背負いながら、出産直前まで畑仕事をします。研修ではその大変さを男性にも実感してもらおうと、7リットルの水を入れた袋を、男性のお腹と背中に1つずつ装着して、実際に動いてもらいました。
 
男性が立ち上がろうとしてよろけると「ホラホラ、赤ちゃんが危ないよ」など声が飛び、会場は笑いに包まれます。
 
お腹に重りをつけた状態で起き上がろうとする男性(妊婦の疑似体験)

 
AMDA-MINDSは、こうした研修を月1回、シャン族の23村(約1,000世帯、4,500人)で実施しています。村を回る8人のスタッフもシャン族で、研修はすべてシャン語。ミャンマーの少数民族は、独自の言語を持つことが多く、ミャンマー語を十分に理解できないため、必要な情報を得ることが難しいのです。そのためAMDA-MINDSがシャン語で行う研修は「わかりやすい」「娘にも参加するように伝えた」と、なかなかの評判です。
 
ただ、課題もあります。それは男性の参加者が少ないこと。1年目では研修を6回実施しましたが、出席者のうち男性が占める割合は33%と、3分の1程度。
 
「母子」保健だから女性が理解していればいい、と思われるかもしれません。しかしシャン族は圧倒的な男性優位の社会。これまで病院を受診した女性に、誰が受診を決めたか聞いてみると「自分」と答えた女性は19%、「夫や(義)父」は3倍近い54%でした。つまり、女性が受診するかどうかの決定権を、男性が握るケースが圧倒的に多かったのです。
 
栄養の研修では、どの食べ物がどんな栄養素を含むか、クイズ形式で学習

 
そこでスタッフは現在、より多くの男性に研修に参加してもらい、適切な母子保健行動をとってもらえるよう、知恵を絞っています。例えば、村人たちに上記の調査結果を見せて誰が参加すべきか考えてもらったり、男性にどんな知識を得たいかインタビューして研修に組み込んだり、農作業で忙しい男性が参加しやすい時間帯を調べたり。さぁ、これで2年目は参加率が上がるでしょうか?
 
妊産婦が亡くなる原因は、1つではありません。いくら知識があっても、必要な医療資源がなかったり、病院を受診するお金や交通手段がなかったりすれば、命が救えないこともあります。それでも「知識がある=どうしたらよいか知っている」というのは、命を守るはじめの一歩。私たちはこの一歩がもつ可能性を信じ、今日も村に研修に出かけています。
 

西尾浩美(にしおひろみ)
ミャンマー事業 業務調整員

文学部に通っていた大学時代、NGOのプログラムに参加したりバックパッカーで旅をしたりしているうちに、途上国医療に携わりたいと思い立つ。看護学科に入り直し、看護師として医療現場や被災地で働いた後、青年海外協力隊員としてベトナムの病院にて活動。2018年にAMDA-MINDS入職。趣味は読書とアウトドア。キャンプ場で焚火にあたりながら本を読むのが至福の時。岡山のお気に入りスポットは、奉還町の某ゲストハウス。神奈川県出身。

 
 

 


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