「盗まれた世代」の存在と新型コロナウイルスが生む差別 海外事業運営本部 白幡利雄

2020/06/08

先日、「ソウルガールズ(原題 The Sapphires, 2012年公開)」というオーストラリア映画が深夜にテレビ放送されていたので、何の気なしに観てみました。正直、映画自体は特に傑作でも駄作でもなく(笑)、普通に楽しめたという感じだったのですが、とても心を動かされるエピソードがありました。それは、オーストラリアの先住民アボリジニのコミュニティに突然やってきた役人が、混血で白い肌の子どもたちを見た目で選別して強制的に連れ去り、白人家庭や施設に預けてしまうというものでした。
 
「白豪主義」とか「同化政策」といった言葉は学生時代、教科書などで目にしてはいたのですが、こんなひどいことがあったのかと驚き、映画を観た後、ちょっと調べてみたところ、なんと本当のことでした。映画の時代設定は1968年。キング牧師が暗殺され、ベトナム戦争が激化し、プラハの春や3億円事件が起き、そして私が生まれた年でもあります。アボリジニはその前年まで市民権すらなく、様々な迫害や差別を受け続けてきたのだそうです。1910年から70年にかけて家族から引き離された子どもたちは「盗まれた世代」と呼ばれていて、オーストラリア政府がこの問題に対して公式に謝罪をしたのは2008年。つい最近のことだということを知りました。
 
このエピソードが私に突き刺さったのは、新型コロナウイルスの蔓延によって世界中で隔離や差別が起き、そうしたニュースに囲まれていたからに他なりません。
 
私たちAMDA-MINDSが駐在員を派遣する形で活動している国は現在3ヵ国あり、計6名の邦人が現地にとどまっていますが、そのうちホンジュラスでは3月20日から、またネパールでは3月24日から全土にわたるロックダウン(都市封鎖)が今にいたるまで続き、厳しい外出制限が課されています。ミャンマーではロックダウンこそされていないものの、各地域間の移動や就業の制限、夜間の外出禁止などの措置が3月下旬からとられてきました。
 

ロックダウンでひっそりと静まりかえった首都カトマンズの住宅街(ネパール、2020年5月撮影)

 
こうした状況下で心配なことの一つに、保健や医療面でのケアやサポートが必要な人々の存在があります。日本でもコロナの影響で孤立する妊婦の問題がたくさん報道されていますが、ネパールでは、すでに妊産婦の死亡率が平常時のおよそ2倍になるなど、深刻な影響が広がっています。
 
一方で、長く止まっていた経済活動を再開していく動きも、少しずつではあるものの、各国で見られるようになってきました。AMDA-MINDSでは、これまでと同様、感染予防に努めつつ、支援をもっとも必要とする人や地域にいち早く光をあてていきます。「盗まれた世代」ならぬ「コロナ世代」などとレッテルを貼ることで、いまできる努力すらあきらめてしまうといったことが決してないよう、私も頑張り続けたいと思っています。
 
アボリジニと新型コロナウイルス。一見、なんの関係もないこの2つのことをめぐる差別のあり様を目の当たりにすると、まだ息子が小さかった時の未熟な自分をよく思い出します。肌の色や着る服など、見た目が自分とは大きく異なる人と会っても、まったく臆せずに遊ぶ子どもの様子を見て感動し、逆に自分の中にある「差別する心」の存在に気づかされたことなどです。
 
今日もまた、まっさらな気持ちで前を向いて行こう!
 
リキシャに乗ってはしゃぐ筆者の長男(バングラデシュにて)

 
 

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この記事を書いたのは
白幡利雄(しらはたとしお)
海外事業運営本部長


学生時代に手話を学んだこと、NGOの存在を知ったことをきっかけに、世界をより良く変えることを一生の仕事にしたいと決意。教育学修士号取得後、日本の国際協力NGOに就職。約21年間、東京事務所で海外事業全体のコーディネーションを担当した他、バングラデシュとネパールに事務所長として駐在。2014年にAMDA-MINDS入職。2020年から現職。趣味は読書と映画鑑賞。岡山のお気に入りスポットは西川緑道公園。東京都出身