理事長ブログ「うみがめ便り~ウミガメも山に入る(第一章)~」

2020/07/30


 
日本では、2016年4月施行の水循環基本法(内閣官房水循環政策本部事務局のサイトに移動します)により8月1日が「水の日」と定められている。一方、世界に目を向けると、1993年の国連総会で3月22日を世界水の日(World Water Day)と定めている。1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議のアジェンダ21で提案され、翌年の決議に至ったものである。それとは別に、1991年以降スウェーデンにおいて毎年8月頃「世界水週間」が開催され、学会のように、研究成果や活動の進捗状況が発表されたり、水に関連する様々な課題が話し合われたりするようだ。
 
世の生物にとって、空気と水ほど大切なものはない。空気がなければ5分以内に、水がなければ5日以内に命は尽きてしまう。水は命の根源であると同時に、命を育み、命をつなげる。それ自体を神と崇める人がいても不思議ではない。
 
吾輩はウミガメである、と伯父は言った。決して若くはない。ゆったりとした泳ぎを見て優雅さを感じる人もいるが、実際のところ、昔ほど早く泳げないのが実情である。普段は海岸線からそう遠くない一帯を生活圏としており、沖合との間を行き来している。深夜、水面に首をもたげ、小雨の中をゆっくり、時に夜空を眺めながら波間を漂うことがあるが、気持ちが安らぐというものだ。かつては必死に遠距離を移動することもあり、黒潮に乗って太平洋を渡った経験もあるが、今ではもう昔の話である。
 
最近の流行(マイブーム)は、魔法のじゅうたんに乗ってリクガメのごとく山に分け入ることだ。ウミガメの遠い祖先は陸地に生息していたという説もあり、その頃に思いを馳せているという考え方もあるが、理由は別なところにある。
 
海の生態系を支えている滋養(栄養分)を提供しているのは山が抱える森である。森林環境の変化が海の生き物の生活を変えると言っても過言ではない。森林と海をつなぐ根本的な要素は水、そしてその流れである。森に源を発した水は川や地下水となって平野部へ向かい、湖や海に至る。その一部は時に水蒸気となり、やがて雨となり森へと還流する。
 
戦後の日本では、著しい経済発展とともに木材の需要が高まり、人工林が増えた。需給バランスが均衡していた時代は新陳代謝も盛んに行われ、一定のリズムを刻みかけていた。しかし、輸入材の増加、都市部への人口流出、高齢社会の到来、需要の低減とともに、林業は衰退した。半分以上の面積を人工林が占める多くの森は、人手が入らず荒れた状態に変容してしまった。そして悪化に拍車をかけたのが昨今の、いわゆる云十年に一度の豪雨である。山は崩れ、木々もなぎ倒される。結果、保水力はさらに低下し、かつて豊かだった山はやせ細っていく。目には見えない部分もあるが、そういうことらしい。
 

大雨による山林の被害

 
山の異変は海に棲む我々にとっても他人事ではなく、エサとなる良質の海藻や海草、あるいはプランクトンや小魚が着実に減ってきており、必然的に水産資源減少の一因となっている。決して看過できる状態ではない。ウミガメの前に魔法のじゅうたんが現われたのはそんな背景があったのではないかと思われる。きっと水の神様が用意して下さったのであろう。ウミガメは山に入る決断をした。(続きは「ニュースレター秋号(2020年9月発行予定)」に掲載)
 
日本の漁業生産量の変化(農林水産省「漁業・養殖業生産統計」より)

 
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