理事長ブログ「うみがめ便り~プロジェクト構想とジビエ料理について(前編)~」

2019/12/19

今回は、瀬戸内の浜に上陸した際にご縁があった山の話をさせて頂きたい。
 
まずはなぞかけから。プロジェクトの立案とかけて、ジビエ料理と解く、その心は?それは、どちらも「こうそうが大事」だということになる。前者には構想、後者には香草という文字が当てはまる。プロジェクトを立案する際、解決したい課題の本質を見極めるため問題分析を適切に行うことは重要であるが、課題(=問題)を引き起こす原因を掘り下げ、一連の因果関係を明らかにすることが不可欠となる。一方、ジビエ肉を美味しく調理するためには、捕殺・放血・搬送・解体処理・保存・保管など、流通過程の各作業が適切かつタイムリーに行われることが重要だが、どこかの段階で完璧さが少しでも損なわれた時、ジビエ肉の料理には香草が不可欠となる。
 

ジビエ料理「鹿のロースト」

 
プロジェクトを立案する際、問題分析を通じて解決を目指す中心問題は通常一つである。中心問題を起点に因果関係を検討しながら原因と結果を枝葉に見立て展開し、問題分析図を描く。それを裏返して目的分析図を描き、対象地域の事業環境や資源・資金・人材などの制約に照らし、プロジェクトの実施を通じてできることは何かを考え、デザイン(案件形成)の基礎となる「塊」を抽出する。そしてその枠組みの中で、活動→成果→目標へと論理的に組み立て、有効性を伴ったプロジェクトを立案する。このプロセスを構想と呼ぶことができる。予算や人材が豊富にある場合は大きな「塊」を、そうでない場合は小さな「塊」をプロジェクト実施可能範囲と捉え取り組むことになる。
 
他方、塊の大小にかかわらず、できないことに分類された枝葉の部分は外部要因(プロジェクトでは直接介入しないが、目標達成には一定の影響を与える要素)となる。しかし、それらの影響が貢献要因として強くなり過ぎると、仮に目標を成し遂げても、プロジェクトによる介入効果は相対的に低くなり、逆に外部要因が強力な阻害要因になると、目標達成自体が困難になる。また初めから活動ありきで、十分な構想がなされないプロジェクトは、ボタンの掛け違いが生じるため、目標を達成できない可能性が高い。
 
村の現状を分析するため、地図をつくる住民(ミャンマー)

 
分かり難いので例を挙げると、とある過疎の村で子どもの小学生の就学率を向上させることを目標に、政府の補助金を活用して校舎の増築を行うことになった。半年後の新学期までに新しい校舎が完成し、就学児童は3%程度増加した。どうやら児童の就学を妨げている原因を十分に分析せず、補助金による建設ありきのプロジェクトだったようだ。一方、同様の課題を抱える山向こうの村では、NGOの協力を得て、父母が給食係を担い、持ち回りで給食を調理し提供するプログラムを立案した。お昼になると児童と先生が一緒にご飯を食べることができるようになり、また学校の敷地内に菜園を設置し、食材となる野菜の収穫を可能にした。一年後、就学児童数は30%増加し、当初の目標を達成できた。このように、問題を適切に分析すれば、多額の費用をかけずに就学率を上げることができる事例は少なくない。
 
ただし、重要な外部要因を見逃してはならない。例えば、前者の村は干ばつに直面し、家庭や畑へ水を供給するため多数の児童がかり出された、という外部要因があったとする。干ばつがなければもう少し就学率が上昇したのではないかと想像できる。また後者の村では、プロジェクト活動に含まれていない小型水力発電装置が設置され、学校に電気が通じるようになったという外部要因があったとする。電気がなければ増加率は半分程度ではなかったのかと想像でき、学校給食の効力はどれ程だったか、今となっては知る由もない。このように、プロジェクトには常に外部要因、特に自然環境の変化など、コントロールできない要素が多数存在し、プロジェクトによる問題解決の因果関係を曖昧にしてしまうケースも少なくない。(後編に続く)
 
 
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ネパールで農家の栽培記録を確認する筆者(中央)。どの活動でも外部要因の分析は重要だ。