サウン月とメヘンディ ネパール事務所 小林麻衣子

2018/08/10

みなさん、ナマステ(こんにちは)!今回のタイトル、ちらっと見ただけでは、なんだかおいしそうなお菓子のようですが、そうではないんです。今日は、ヒンドゥ文化にすこし踏み込んで、ネパールの人々の日常を彩る祭事についてお話したいと思います。
 
ネパールには、太陰暦がベースになった独自の「ビクラム暦」があります。おもしろいのは、この暦が、旧暦としてではなく現存し、西暦と並行して用いられていること。サウン月というのは、ちょうど4月中旬から新年が始まるビクラム暦「第4の月」にあたります。例えば、2018年8月10日であれば、2075年4月(サウン月)25日、となり、新聞にも両方書かれています。
 
そして、メヘンディ、というのは、ヘナ(ヘンナ)という植物の葉を乾燥させ粉末にしたものを水に溶き、そのペーストを使って皮膚を染めるアートのことです。
 

スーパーに売られているメヘンディ用のペースト
スーパーに売られているメヘンディ用のペースト

 
サウン月に入ると、ネパールの女性たちは、こぞって手や足にメヘンディを施し、翌月のバドウ月にある「ティーズ」というお祭りに向けた準備を始めます。ティーズは、ヒンドゥの女神であるパールヴァティとシヴァ神が夫婦として結ばれたことを起源に、特に既婚女性が、夫や家族の健康と繁栄のために祈りを捧げる3日間のお祭りです。ヒンドゥ神話では、パールヴァティが、シヴァの心を射止めるために手足にメヘンディで模様を描き、それに魅せられたシヴァが結婚を承諾した、と言われていることから、今も女性たちは、自らをパールヴァティに見立て、夫のことを思い、飾り立てるのだそうです。
 
ティーズの様子
ティーズの様子

 
3日間あるティーズのお祭りでは、まず初日に、女性たちは、一切の家事を行わず、赤いサリーをまとい、たくさんの宝飾品を身につけて、一日中歌い、踊り、たくさんのごちそうを食べることになっています。これは、その翌日にまる一日、飲食を絶ってシヴァ神に祈りを捧げ厳粛にすごすための準備です。それが終わった3日目の朝、日の出に祈りを捧げ、沐浴して身を清めた後、ギー(牛乳から乳脂肪分だけを抽出し精製した油)を使って、家族のためにまた調理を始めます。
 
ヒンドゥの儀式としての要素以外にも、このティーズをモンスーン期に祝うことには社会的な意味があるようです。モンスーンが始まるサウン月は、農家は田植えのため一年でいちばん忙しくなります。その繁忙期を迎える前に、嫁たちが集まってメヘンディを施し合い、互いの結束を高めたそうです。そして、超多忙な日々を乗り越え、サウン月の翌月、バドウ月を迎えた嫁たちは、着飾って実家に戻り、家事をお休みして、みんなで歌い踊りながら婚家でのつらい日々を忘れ、ごちそうを食べて英気を養い、また日常に戻っていったのだそうです。
 
ところで、メヘンディ、私も先日やってもらう機会があったのですが、ペーストで描くのに2時間半、その後、ペーストを乾かして、色素がより定着するよう菜種油をたらさねばならず、全行程を終えるのに5時間以上かかりました。やれやれ、こんな大変なことはもういいわ、というのが正直なところですが、こうして季節を楽しみ、日常に彩を取り入れ、家族のことを思っているネパールの女性たちはすてきだな、と思います。
 
両手両足に3人がかりでやってもらいました
両手両足に3人がかりでやってもらいました